K様はソムリエの資格を持つ30代の女性で、某有名レストランにお勤めだった。
リフォーム済みの友人宅の内装をご覧になり、「自分の思い通りの間取りに好きなものばかりが詰め込まれた空間」に憧れを持たれた。
リフォームの土台となるマンションは、立地や予算で絞り込みすぐに決まった。
一方、リフォームではこだわりが多く、とくにキッチンは、料理や飲みものを用意しながら友人たちと一緒に会話を楽しめるよう、カウンターつきを希望された。
しかし、既製品の中には理想の形やカラーがなく、オーダーメイドでは予算が合わない。
そこで担当者と相談し、キッチンは既製品から選びカウンターをオーダーメイドにすることにした。
何度も材木店に通いイメージ通りの木材を探した。
やっとプランが全て決まって着工目前となったある日、「もう一度、プランを考え直したい」とK様がおっしゃった。
カウンターの前に置く予定の椅子が、玄関から見えてしまうのが気になるという理由だった。
リフォームの過程において、お客様が想像できなかったことが違和感になるということはよくある。
とくに、K様のようにスケルトンリフォーム※をする場合、注文建築と同様ゼロからすべてをつくり上げるため、途中でお客様のご要望が変化していくことも多い。
※内装や設備をすべて解体して行う大掛かりなリフォーム
勘弁してもらいたいという思いが皆無だったわけではない。
が、「それならゼロから考えなおしましょう」とすぐにお伝えした。
着工が延びることで、金銭的にも精神的にもK様に負担をかけてしまうかもしれない。
しかし、絶妙なバランスで収まっている間取りは、一つの景色を変えようとするならすべてをやり直さざるを得ない。
何より、K様のイメージされている空間にするためには、最初からやり直すのが一番だと判断した。
結局、そこから完成までに半年以上かかった。
無事に完成しお引越しも終わったご自宅に伺ったとき、「私がなかなか納得しなくても、嫌な顔一つせずに付き合ってくださいましたね。完成した内装は想像以上で、これまでよりも家で過ごす時間が増えました」と、K様は笑顔で言ってくださった。
その日、K様が振る舞ってくださったワインの味は格別だった。
リフォーム業界がクレーム産業と言われる理由は、「思っていたのと違う」というお客様の言葉に集約されていると私は思う。
「思っていたのと違う」ではなく、「想像以上のもの」と言っていただくためには、お客様の要望を具体化して確認し、さらに要望を伺って修正する。それを繰り返すのみだ。
どれだけお客様の理想に思いを馳せ形にできたかが私たちの価値を決める。
そしてその価値に、お客様は対価を払ってくださるのだ。