初夏のある日、T様から問い合わせをいただき資料を持参した。
T様は40代の女性で、資格を活かして独立開業されたばかりだった。お仕事も大変な状況で離婚調停も進めておられ、高校生のご子息と住むための家を探されていた。
ご予算は現金購入で諸費用を含めて2000万円以内。緑の多い環境の一戸建てを希望されていた。
T様は私が持参した資料のなかからいくつかの物件の見学を希望されたが、私はすべての物件を否定した。
自分が選んで持参した物件ではあったが、実際にお会いしてお話を伺い、お勧めできる物件はないと判断したからだ。
もちろんご案内することもできたが、私の正直な気持ちを伝え見学は見送った。
それから「家探し」を通じてやり取りをするなかで、仕事、子育て、離婚調停を抱えたT様が家探しをすることの不安が痛いほど伝わってきた。
だからこそ、「何とかなりますよ」というような安易な言葉は口にできなかった。
私がT様のお住まい探しをお手伝いすることで、少しでも現況を変えるきっかけになれば・・・と思った。
T様からは、物件の話以外にも仕事や家庭のこと等、さまざまなことを伺った。単なる話し相手にすぎなかったかもしれないが、何気ない会話がT様の気分転換や応援になれば・・・とも思っていた。
出逢いから1ヶ月経過したある日、T様の条件にぴったりと当てはまる物件が売り出された。私は、T様にすぐに連絡しご案内した。T様も気に入られ、すぐに購入するか否か決断のときがきた。相談相手のいないT様は、私に相談された。
「この物件に決めて、後悔しないですよね?」
そんなT様からの言葉に対し、私は正直にこの物件を買うデメリットもお伝えした。
そのうえで、買うべき理由と条件に合っている理由も全てお伝えした。
「この物件を購入するかどうかは、私を信用できるかどうかです。私が信用できるなら、この物件で決めても後悔はされません」
T様は私の言葉を信じて購入を決心された。
それから数カ月後、T様から手紙が届いた。
最初は、Nさんが持ってこられた物件なのに、私が見たいといっても
「これはお勧めできません。これもお勧めできません。」とことごとく否定され、
“何なんこの人!”と思いましたが、それにはすべて理由があったのですね。
正直、他社は値段の話しばかりで売り急ぎの感がありました(今すぐ買わないと売れてしまいますよ…等)。
ですので、Nさんが一番考えてくださって、信頼できる方だと感じました。
(中略)
私的な問題をたくさん抱えていた時期でしたので、家を買うということが唯一の支えでした。
夢を見られたから暗い問題も乗り越えられたと思っています。
自然に囲まれ、とても静かな環境で、この家が大好きです。
家に居ると、ゆっくりと平和な時が過ぎていく気がします。
お掃除嫌いの私が、毎日ピカピカに磨いています。
この町で、この家で、平和に歳を重ねてゆきたいと思っています。
この度は、本当にありがとうございました。